空白の玉座
港の傍の本来の市場から離れた場所にその市場は開かれている。
普通に人が行き交うそこはもう公然としたものになりつつあった。
格子状の檻に入れられた馬や牛とともに混じった人間を物色しながらクラリスは奥へと進む。
厚い布で顔を隠し、目だけを出した状態でも、クラリスの銀の瞳は高貴な雰囲気が漂っている。
ただ、それがこのルディア国の第三王子だということに気づく者はいない。
一際人間の沢山入った檻の前で、クラリスは足を止めた。
早速小柄な小太りの店主が声をかけてくる。
「いらっしゃい。今日は珍しいものが揃ってるよ」
店主の方すら見ずにクラリスはグルリと檻を見渡す。
端で小さく蹲っている金髪の少女に目が行った。
「あれは?」
ようやく話しかけてもらえた店主は笑顔でクラリスの前に歩み出る。
「珍しいだろ?金髪なんて。異国の娘だ」