空白の玉座
ゴルドアは全体を見回しながら黒々とした髪の毛と同じ色の顎髭を触る。
話し始める時の彼の癖だった。
「練習ご苦労。今日から入る新入りだ、面倒を見てやってくれ」
ゴルドアが背中を押すと、隣にいた少年は促されるように一歩前へ出た。
「………セシです」
視線を上げずに短くそれだけ言うと、少年はまた後ろへ下がった。
「それだけ?!」
隣のリークがぷっと吹き出す。
笑うと特徴的な八重歯が口元に覗いた。
「ジェイス」と低くよく通るゴルドアの声に、ジェイスは列より一歩前に出た。
任せていいか?という問い掛けにジェイスは笑顔でもちろん、と頷いた。
訓練を切り上げて王宮内を案内する事にしたジェイスは、
興味津々に付いてくるリークに苦笑いしながらも、セシに紹介した。
セシは慣れない相手に、どうも、と小さく頭を下げる。
家では気付かなかったが彼はどうやら人見知りするらしい。