空白の玉座



勢いよく閉めた寝室の扉にルシアは背中を預けた。

…びっくりした。

びっくりして戻ってきてしまったが、あの子に助けを求めればよかったんじゃないかと今になって思う。

王様が殺されそうだと。

一瞬見えた顔は黒髪で可愛らしい雰囲気の、同い年くらいの子だった。

少し後悔して、慌てて首を左右に振る。
国王暗殺なんて知られれば敵でも味方でも関係ない。

自分の話を信じてくれるかも疑問だし、不審人物で投獄されそうな気もする。

そう思って別のことにルシアは気付いた。

ツギの実の汁は即効性の猛毒だ。
国王が毒殺されれば真っ先に傍にいる者が疑われる。

クラリスに自分を助ける気などないのかもしれない。
絶望的な気分が頭を支配していく。


ここは綺麗な牢獄なんだと、今さらながらに思い知った。





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