来栖恭太郎は満月に嗤う
そうと決まれば。

俺が指を鳴らすと、部屋の外に待機していた人物がすぐに入室して来た。

「…ひっ…!」

その人物を見るや否や、リルチェッタが鋭く息を飲む。

小さな立ち襟の白いワイシャツ、黒のベスト、ネクタイ、黒のパンツ。

出で立ちこそ、いわゆる執事(バトラー)。

だがその男には、決定的に普通の執事とは違うものがあった。

肌が露出している部分…顔や両手を、包帯で覆い包んでいるのだ。

指先まで、そして目や口以外の部分まで。

髪の毛のみが、巻いた包帯の隙間から僅かにはみ出している程度。

上等な仕立ての執事の服装とのアンバランスさが、その男の異様さを引き立てていた。

「御呼びでしょうか、ご主人様」

「クレオ、その娘にエプロンドレスをくれてやれ。今日から我が屋敷でメイドとして働くリルチェッタだ」

執事・クレオに脅えの色を見せるリルチェッタに興味すら示さず、俺は冷たく言い放った。



< 8 / 162 >

この作品をシェア

pagetop