名残の雪
半年前、後期の学級委員が決まった日の放課後。

わたしの元へと歩み寄ってきた、制服を着崩した男の子は意外そうに眉を潜める。

『…あんたが学級委員?』

『何か問題でも?』

同じように眉を寄せて怪訝そうに答える。


『いや…、あんたみたいな、愛想なくて可愛げがなくて協調性ない人間が、学級委員って意外だったからさ』

いきなりの失礼発言に、わたしの眉間の皺は彫りが深くなったと思う。


『っていうあなたも、その制服の着方間違ってるし』

そこで言い返してしまうあたり、すでに彼の言う協調性も可愛げも愛想もないのだろう。


『そう?』

気にもしないふてぶてしい態度で、頭を下げ自分の着こなしをチェックしている。


ネクタイを緩め、ブレザーのボタンがしっかり止まっていないからワイシャツは裾が見える。極めつけ上履きの踵を踏んでいて。


こんな男が学級委員なんて、はっきり言って意外なんてもんじゃない。心外だ。


『あんたって、負けず嫌いなんだ。頑固だし、その頭の固さ少しでも柔らかくすればモテんのに。勿体ない、損な性格だね?あんたって』

“あんた”って名前でもなければ、よく知りもしないこの人に“あんた”なんて呼ばれる筋合いはない。


『あんたじゃなく、早川雅美(ハヤカワ マサミ)』

わたしの目線は彼には合わせず、ずっと奥の掲示板へと向けられた。


『知ってるし。でもあんたも俺の名前知ってんの?』

そう言った彼は、視界の隅でニヤッと笑みを浮かべたように見えた。


『久保…、修平(クボ シュウヘイ)』
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