名残の雪
3年生追い出し会の議案は全く浮かばないまま、わたしは時間を弄んでいた。
隣を見やれば、久保くんはシャープの芯をカチカチと出し、サラサラと真面目にノートに書き込んでいる。
真面目という言葉が似合わない男が、たまに真面目になると興味深いくらい。
興味でノートを覗き込んでみれば、先生の似顔絵なんか描いてるし。
「やっぱり…」
無意味な安心感を覚えて、そう声に出していた。
ちらっとこちらを見た久保くんは、またノートへと視線を移して手を動かす。
何かを書き終えて見ろと言わんばかりに、ノート上をシャープペンで差す。
“俺はいつまで待てばいいわけ?もう待てないんだけど?”
目を見張り書かれていた文を仰視する。
すかさずシャープペンを奪い、その下に文字を走らせる。
“待ってるって言ったの、そっちでしょ?”
こんなことを言いたいわけじゃないのに、勝手に手が動いていた。
久保くんの視線はノートからわたしへと集中する。
返事に困ったのか、しばらくしたのちにまたペンを滑らした。
“脈ナシってこと?”
と、書くとペンを差し出してくる。
シャープペンを受け取ったわたしを見る久保くんの顔が、ニヤリと口角を釣り上げたような気がした。