ダンデライオン~春、キミに恋をする~


走って走って。

息が苦しくなっても走って。



はあっ、はあっ、はあっ……。


吸っても吸っても、肺が満たされない。

それでもあたしは何度も呼吸を繰り返す。


肩にかけていた鞄が、力なくずり落ちた。





「……」





すぐに戻ってきた。

そう思っていたのに。



音楽室はもぬけの殻。

なにもなかったみたいに、そこには初めから誰もいなかったみたいに
ひっそりと静まり返っていた。




それから。


教室

体育館

食堂

渡り廊下

屋上

箱庭。

全部見て回ったけど、響はどこにもいなくて。




まるで最初から響はいなかったみたいに。


彼は学校に来なくなった。


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