恋人はトップアイドル

そして私は恋を知る

さっきのあの抱擁は、なんだったんだろう。

輝の力強い腕の感触と、すぐ近くで聞こえた声が、まだ耳や身体に残ってる。

根こそぎ、奪われるかと思った。

それくらい身体の芯から、輝に震えた。

あのドキドキが、まだ消えない。


どうして、輝はあたしを・・・。


そんなこと考える余裕もないのに、再開したコンサートは、どこか上の空のまま、だけど無事に終わった。


「ハプニングがあったことは、みんなで反省しなければならない。一時でもコンサートを中断してしまったこと、輝やメンバー、そして何よりファンに不安感を与えたこと、これはスタッフとして許されないことだ。
全てのスタッフ、そして特に音響。これより先は、より一層気を引き締めて、二度とこんなことがないように。
だが、なにはともあれ、初日は怪我人が出ることもなく無事に終わった。お疲れ様でした。」

全スタッフを統括している人が、厳しい顔つきで最後の挨拶を終えた。

それと同時にスタッフがバラバラと散っていく。

あたしは小さくため息をついた。終わった、と思った瞬間に、ドッと緊張感や疲労が押し寄せる。

身体全体が異常に重い。それに何より・・、輝のこと。輝の行動の意味がよくわからないあたしの心は、違う意味でもっと重かった。

「優美ちゃん。」

堂本さんの声がして振り返る。

「あ、お疲れ様でした。」

「お疲れ様。初日、よく頑張ったね。今日はゆっくり休んで、明日もまた頑張ろう。」

「はい。」

堂本さんの優しい声に、心が温かくなる。


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