恋人はトップアイドル
「それと、今日はありがとうね。」

「え?」

堂本さんの言葉に、首を傾げる。

お礼を言われるようなこと・・したかな?

「コンサートが中断しかけた時。君、客席に出て歌っただろう?」

「あっ・・・。」

あの時は無我夢中で止まらなかったけど、本来ならいけないはずだ。

「あ、あの、すみませんでした。」

あたしは慌てて頭を下げる。

「いや、いいんだ。今日は特別だけどね。輝はきっと、君のおかげで、あのあと歌うことができた。多分、すごく感謝していると思うよ。
これからも輝の側に、いてやってくれ。」


最後の言葉に、あたしは思わず戸惑った。
きっと堂本さんは、「スタッフとして」輝の側にいてやってくれ、と言ってるんだ。

わかっているのに、堂本さんの笑顔が、何故かすごく温かく見えて、それは仕事に対してのものじゃなく・・・、何かを見通しているかのような、まるで、あたしと輝を違った意味で応援しているように見えて、あたしは固まってしまった。


「じゃあ、お疲れ様。」

「あ・・!はい、お疲れ様でした!」


堂本さんの声に、ハッと我に返って頭を下げた。



輝の・・側に・・・・。

それは一体、どういう意味で・・・?


父親みたいな背中を見つめながら、あたしは答のない問いを、心の中で呟いた。











「スタッフのミーティングが終わったら、駐車場に来て。待ってるから。」

さっき抱きしめられた時、輝は最後にそう言った。

なんで?と聞き返す間もなく、堂本さんがやってきて、あたしたちは慌てて離れた。


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