恋人はトップアイドル

あなたの腕の中で

着替えが終わって、静かな廊下を一人出口へと向かって歩いた。

もう、誰もいないのかな?

女性スタッフの他のひとは、みんなあたしより先に出た。

一人、ため息を漏らす。


ユキさんの顔や言葉が、頭に浮かんでは消えた。
胸のモヤモヤが、消えない。


すると。

「きゃ・・!?」

後ろからいきなり手首を掴まれたかと思うと、近くの楽屋へ引きずりこまれた。

暗い室内、ドアがばたんと閉まったかと思うと、彼はドアに寄り掛かって、ギュッとあたしを抱き寄せた。


その力強さに、何だか涙が出そうになる。

・・あったかい・・・。


ただ幸せで、輝の胸に頬を寄せた。

「・・輝さん、て、何だよ。」

掠れた、少し不機嫌な声が、頭上から聞こえた。

「もう、帰ったかと思ってた・・・。」

「お前に会わずに帰れるかよ。ってか、質問に答えろよ。」

「・・だって、ユキさん、の前だったし・・。バレちゃいけないと思って・・。」

「ふざけんな。ユキは呼び捨てなのに、なんでお前がさん付けなんだよ。」

ますます、輝の声が低くなる。反して、腕の力は強くなった。

「・・・それは・・あたしが、スタッフだから・・・。」

小さな声で、そう答えた。

「そんなの関係ねえよ。俺にとっちゃ、お前はもう、俺の女だ。自分の女にさん付けで呼ばれんの嫌なんだよ。・・距離、開いたみたいで。」

「輝・・・。」

「でも、ごめん。ユキ、うるさかったよな。あいつの前だと、俺も警戒して、少し冷たくした。」


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