恋人はトップアイドル
「ああ悪い。」

輝の怒りに、社長が焦ったように謝った。

「もういいだろ、俺は帰るぞ。」

輝がため息をついて、立ち上がった。

「堂本も笹本も、帰していいよな?」

輝がそう聞くと、

「ああ、構わない。」

と社長が答えた。


「行くぞ堂本、お前も、とっとと出ろ。」

輝があたしを親指で指差す。

その仕草に、やっぱり悲しい気持ちになった。

あたしも立ち上がった。


「あ、の・・。」


だけど、帰る前にひとつだけ、言いたいことがあった。


「本当に、ありがとうございました。・・・恩に、報いれるよう、頑張ります。」

「・・ああ、そうしてくれ。」

社長が、微かに笑った。

最後にお辞儀をして、社長室を出た。続いて、堂本さんと輝が出てくる。


社長室の分厚いドアが閉まった瞬間────。


「ゆ・・笹本っ!?」

「優美ちゃんっ!?」


急激に足から力が抜けていった。崩れ落ちそうになるあたしを、輝が咄嗟に支えてくれた。堂本さんも側にしゃがみ込む。


「ご、めん・・、緊張解けたら・・足が・・・。」

苦笑してしまった。初めてだ、こんなの。

「とりあえず、車まで運ぼう。」

輝がそう言って、あたしを抱き抱えようとすると、堂本さんが制止した。

「輝、ダメだ。俺が運ぶよ。」

「は?」

「ここは事務所だ、それに・・そんな顔で優美ちゃんを運んでたら、いくら演技してても感づかれるぞ。」

輝はその言葉に動きを止めた。

「・・くそっ。」

小さくそう言うと、

「優美、堂本に運んでもらう。いいな?」

小声で、耳打ちしてきた。

あたしは頷くだけ。

「よし、行こう。」

そう言う堂本さんに抱き抱えられ、あたしたちは事務所を出た。


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