恋人はトップアイドル
「輝・・っ、く、るし・・」

その小さな小さな声にハッとして、力を緩めた。

「・・ごめん。」

「う、ううん。」

優美は小さく首を振った後、俺を見上げた。

「・・ごめんね、帰って、なんて言って・・。」

「・・・大丈夫か?」

青白い表情が、戸惑いを見せている。優美は少し間を開けて、
「とりあえず、中に入って?」

と言った。

その言葉通りに、リビングに入ると、ダイニングテーブルの上にびっしりと勉強道具が並べられていることに驚いた。

まさか・・。


「帰ってから、ずっと?飯は?」

「・・うん、まあ。」

苦笑した優美は、キッチンに入ってやかんに水を入れて火にかけた。


そんなに、大変なのか。
そんなに、プレッシャーがあるのか。

わからない。
わからないけど、優美の表情が切迫感を見せていて、何も言えなかった。


「ごめん、片付けるね。」

俺にはわからない、難しそうな問題がびっしりと書かれた教科書やノートの数々を、優美は片付けていった。


「・・鈴木から、聞いた。」

「え?」

優美が不思議そうな顔をしている。そりゃそうだ。

「お前が、校長に呼び出されて・・、鈴木が俺たちを送ったから。そんときに、お前のこととか、生徒会がどうとかって、聞いたんだ。」

「・・健人は・・・、ああ見えて、一番生徒会を大事に思ってるから。・・想像つくな、怒ってたでしょ?」

優美の穏やかな返しに、こんな時なのに嫉妬心が芽生えた。

なんで俺より、あいつの方が優美に近く感じるんだろう。


「・・ああ。」

俺がおもむろに頷くと、

「ごめんね、でも・・決して、悪気はないから。」

と優美はいった。

「心配しないでね、何とかするから。」


優美はそう言うと、また背中を向けてキッチンへ入ってしまった。

見えない壁を感じる。

一体、どうすれば・・・。


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