恋人はトップアイドル

夢を追いかけて

最初は、そんなつもりは毛頭なかった。

あたしはただ、勉強しか取り柄がなくて、海外で働く夢を叶えるためには、憧れの進学校で勉強して、いい大学に入るのが一番の近道だったからそうしただけ。

まさか自分が、答辞を読むことになるとか、1位になったがために生徒会長になるとか、そんなこと、考えてもいなかった。

「君が今日から、この学校の生徒会長だ。」

ある日突然。
校長から呼び出され、そう言われた。

考えてみれば、断る理由はなかった。
これを受ければ、あたしは大学へ行ける。

それに、この学校での生徒会長の地位が、どんなものかということも知っていた。

試してみたかった。
自分の力を。

本当に、そんな軽い気持ちだった。



でも実際は、逃げたかっただけなのかもしれない。

部活をやっているわけでもなく、取り柄が特別あるわけでもなく、家に帰れば一人ぼっち。

そんな気が遠くなるような、つまらない日常から。


抜け出したかったんだ。



実際やってみれば、それはそれは、噂に違うことなく大変な仕事だった。
だけど、気の置ける仲間、尊敬してくれる後輩が出来た。
みんなと一緒に何かを作り上げたり、考えたりすることは、とても楽しかった。

だけどその半面。

先生の視線を感じる。みんなからの注目を浴びる。同学年の受験組からの嫉妬を、否応なしに受ける。


みんな、注目していた。

会長は、どれくらい頭がいいのか。そうなれるだけの器量があるのか。
一人だけ推薦を受けやがって。結果を残さなかったら、承知しねえぞ。

そんな空気が、いつも側にあった。


自分のため。
そんな理由で逃げたから、逃げた分だけ、辛くなった。


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