迷宮の魂

 寝ようとは言わない。勿論、させろなどという無粋な言葉は使わないが、はっきりと朝まで一緒に居てくれとは言う。朝まで遊べるような場所など無いから、その言葉の意味するところはただ一つしかない。

 美幸をえらく気に入った客の一人に、島一番の雑貨屋の若旦那が居た。

 若旦那とはいっても、既に三十半ばをとうに越した男である。

 その雑貨屋は、洋服から日用品、食料品、更には酒までと、とにかく何でも揃えている。

 岩田屋といって、島では古くからの店らしい。

 此処の主人で若旦那の父親である茂夫というのが、六十を過ぎてもかなりの遊び好きで、酒を卸している飲み屋の女の子を片っ端から口説き回っているらしい。

 エリーにも週の半分は顔を見せるが、今のところのご執心は莉奈のようで、来れば片時も傍から放さない。

 莉奈は莉奈で、相手が自分の祖父程にも歳が離れた岩田屋の主人を適当にあしらいながらも、満更でもない様子で、たまに茂夫と朝帰りをする事もある。

 息子の若旦那は名前を勝巳といい、その禿頭のせいもあってか、実際の年齢よりもかなり上に見えた。

 気の好い人柄なのは美幸にも何と無く判るのだが、酔うとやたらと身体を触って来る癖があり、それだけで生理的に受け付けられなかった。

 莉奈は、

「島一番のお金持ちなんだから、ちょっとはサービスしちゃって、いろいろ甘えちゃえばいいのに」

 と、顔に似合わないような事を平気で言ったりする。ひょっとしたら、父親の茂夫にはそういう手管を使っているのかと思ったりして、最近では莉奈に対するイメージも変わって来た。

 島に来てから、自分は随分と健康的になって来たなと、美幸は実感し始めていた。

 食欲も充分にある。肉付きも良くなり、多少、ふっくらとして来た。

 ついこの前迄は、頬もこけていて骨が透けて見える位に痩せていたが、今は女らしい柔らかな曲線を取り戻している。

 改めて、自分は荒んだ生活をしていたのだなと思い返してみた。

 同じ夜の仕事をしていながらこうも違うのは、やはり環境のせいなのかなと思った。





< 108 / 226 >

この作品をシェア

pagetop