迷宮の魂

 寝たきりになっていた遥の所へ三度の食事を運ぶ役目を、部屋が隣という事もあって美幸がする事になった。

 遥が寝込んで三日目の事だった。

 前日はかなり店が混み合い、店が終わったのが朝方近くになってしまった。

 部屋に戻り、シャワーを浴びるのももどかしく、美幸はそのまま泥のように眠った。

 普段でも寝起きが良い方ではない。起きた時には既に夕方になっていた。

 慌てて飛び起き、顔も洗わずママの家に向かう。

「すいません。寝過ごしちゃって」

 ばつが悪そうに居間へ行くと、食事を終えた何人かの女の子が店に向かうところだった。

 ママも今日は早い時間から化粧を済ませていたようで、遅れて来た美幸を見て、

「美幸ちゃん、急いで夕ご飯済ませて支度しなさい。今夜は岩田屋さんの紹介で東京からお客さんが来るから。急いでね」

「はい」

 時計を見ると、5時を過ぎている。

 食欲は昨日の飲み過ぎで殆ど無かったから、夕食は要らないと言った。

「ママ、遥さんの食事、持って行きますね」

「それなら、さっき直さんが持って行ってくれたわよ」

「直さんが?」

 そういえば、何時も台所で自分達の食事を給仕してくれる直也の姿が見えない。

「美幸ちゃんが起きて来ないから、朝もお昼も直さんがやってくれたのよ」

「そうなんですか……」

 美幸はそう聞いて、胸の内が理由も無くざわついた。

 何故、そんな気持ちになったのか自分でも判らなかったが、身体の中で生まれたざわつきは、徐々にはっきりと形になり、鼻の奥へとせり上がっていった。




< 110 / 226 >

この作品をシェア

pagetop