迷宮の魂

「じゃあ急いで支度して来ます」

 と言うのももどかしく、美幸は急いで部屋へ戻った。

 鉄製の外階段をサンダルの音を立てながら上がると、丁度、遥の部屋から直也が出て来るところに出くわした。

 こんばんわ、と挨拶をしようとしたら、玄関先で彼の手を掴んでいた遥と目が合った。

 二人は美幸の顔を見た瞬間、何処か空々しい態度で手を離した。

 何だか見てはいけないものを見てしまった気がし、美幸もちょこんと頭を下げただけで自分の部屋に入って行った。

 ドアを閉める時に、階段を降りて行く直也の姿が見えたが、何と無く急いで立ち去って行くような雰囲気に思えた。

 ふと視線を感じると、遥が自分の方をじっと見つめていて、その表情がまるで勝ち誇ったかのように感じられた。

 言葉も交わさずにドアを閉めた。

 化粧をしてる時に、つい今しがた見た遥の表情を真似てみた。

 鏡に映ったそれは、子供の頃、一番嫌いだった同級生にそっくりだった。

 その女の子は、何かにつけ自慢したがる子で、着ている物や文房具など、身の回り品で他の子達と、違う物を持っていないと気が済まない性格をしていた。

 他人の物と自分の物を見比べ見定めた後に、必ず、ふん、と小ばかにした顔をする。

 美幸が真似た顔が、それとそっくりに思えた。

 病気だなんて言ってたけど、ほんとかしら……

 直さんだって、ほんとに食事を運んだだけ?

 そういう仲なら仲で、別にこそこそしなくてもいいのに……

 直さんて、あんな顔してて、意外と食わせ者なんじゃない……

 莉奈から聞いていた噂話が、憶測に拍車を掛けた。

 その日一日中、美幸の頭の中でそんな事ばかりが渦巻き、店では仕事が手につかず散々だった。





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