迷宮の魂



 翌日、目を覚ましてまどろんでいた時に、遥が部屋に来た。

 ドアをノックされ、美幸ちゃん、と何度も呼ばれたが、初めは無視を決め込んでいた。

 それでも、しつこくノックしてくるので、仕方無しに遥を招き入れると、彼女は顔を見るなり、

「誤解しないでね」

 と、開口一番言って来た。

「何の事?」

 半ば惚けて聞き返した。

 遥は別段言い訳がましく言うでもなく、さも秘密にしていた恋を打ち明ける女子高生のような明るさで、昨日の事を話した。

「あたしと直さんの事、出来てると思ってんでしょ」

「へええ、出来てたんですか?」

 飽くまでも惚ける美幸に、遥はそれでも動じるふうはなかった。

「まだそんな関係までにはなってないわ。あの人、歳の割に純情っていうかさ、前々からあたしが好きだって言っても、何も言ってくれないのよ。でも、気持ちは通じてると思う」

「そうなんですか……」

 そう相槌をしたが、心の中では馬鹿らしくなって、聞いていられなくなっていた。

「彼、いろいろとあってね、ちょっと恋愛とかに臆病になってんのよ」

 私は彼の全てを知っていると言わんばかりの口振りだ。

 話を聞いているうちに、彼女が直也の事を彼と呼んでいる事に気付いた。

 なんだろこの人、完全に彼女気取りじゃない……

 段々、腹立たしくなって来た。

「ようは、遥さんから迫ったけど、振られたって事でしょ?遥さんの片想いなんじゃないんですか?」

 皮肉を込めて言っても、返って来る答えは、

「彼は臆病になってるだけ。女なら誰でも構わないなんていう男とは出来が違うのよ。きっと、あたしなんかには想像もつかない理由があるのよ」

「そうですよね。男のくせにリストカットしちゃうんですから」

「美幸ちゃん……」

 遥が睨んで来た。





< 112 / 226 >

この作品をシェア

pagetop