迷宮の魂
「へええ、私から見たらそんな怖い人には見えないけどなあ」
「いやあ、本当の事は判らないけど、確かに直さんとは喧嘩したくないなあって思うもん。源治さんていう島でも有名な暴れん坊が居るんだけどさ、こんな事を言ってたんだ」
話はこうだ。
直也の噂を聞いて、何と無く虫が好かない野郎だと思った源治が、端から喧嘩腰で突っ掛かった事があったらしい。ところが、直也の全身から恐ろしい程の殺気を感じ、喧嘩にもならなかったそうだ。
「本気で殺されそうだと思った」
と、会う人間に何時も言うものだから、余計、直也にその類の噂が絶えなくなった。
「そういう強面の直さんだけど、不思議な事に女となるとからっきし意気地が無くなるらしいんだ」
何事もお節介な岩田屋の茂夫が、直也に女を紹介しようとした。
気が合えば結婚でもして、この島に落ち着けと言ったらしい。
島に来てから浮いた噂の一つも無かった直也だったから、てっきり二つ返事で宜しくお願いしますと言って来ると思っていた。
ところが、直也は頑なに断って来た。他に好きな女でも居るのかと訊ねてみたが答えない。別な理由があるのかと訊いてもやはり答えない。
こういった事があって、今度はエリーのママと出来ていると噂が立ち始めた。
狭い島だから、噂がぐるぐる回り巡って、当の本人達の耳にもすぐに入った。まるで根も葉もない噂だったのが、瓢箪から駒となってしまい、ママがその気になってしまった。
それで、直也に迫った事があったらしい。それも一度ならず、二度三度と。
「据え膳食わぬは男の恥って昔から言うけど、直さんは泣きながら勘弁して下さいって頭まで下げたらしいよ。ママはああ見えても色気があるでしょ、とても50近いなんて思えないから、結構口説こうって男は多いのにね。あっ、俺は美幸ちゃん一途だけど」
勝巳の最後の言葉を聞き流し、美幸は昨日見た光景を思い出していた。
そう言われてみれば、あの時も遥が迫っていただけで、直さんは寧ろ逃れようとしていたのかも知れない。
女嫌い?
これまで美幸が見て来た男達とは違う存在。単なる興味がそれ以上になって来た。