迷宮の魂
勝巳と約束した日が待ち遠しくて、当日の朝などまるで初めての遠足を前にした子供のようにそわそわしていた。
たかが他人の噂話を聞くだけなのに、とは美幸は思っていない。
自分が抱いていた印象とまるで違う遥の実像に、興味が沸いて仕方が無いといった感じなのである。
一昨日とは違い、仕事用の軽トラックではなく、勝巳は自分の乗用車で待ち合わせ場所にやって来た。
完璧にデート気分だ。着ている物まで何時もと違っている。それが似合っていれば多少は見られるのだが、どうも勝巳にはそういうセンスは無いようだと美幸は思った。
連れて行かれたうどん屋は、何処の田舎にもありそうな定食屋みたいに、ごくありふれた造りの店構えをしていた。その外見からはとても評判の店だとは思わなかったが、注文した天麩羅うどんが出て来た時に先ず驚かされた。
天麩羅が伊勢海老なのだ。それに、見た目だけじゃなく、味もそれまで美幸が食べた事のあるうどんとは、まるで別物であった。
この事だけが目的で来ていたのなら、もっと素直に美味しさを堪能出来たろうにと、やや残念な気持ちになった。
食べ終えると、急かすように一昨日の続きを聞かせてと、勝巳にせがんだ。
「あの子のほんとの歳、知ってる?」
「そうねえ、私より少し上位かなぁ。二十歳後半?」
「35だよ。俺とそんなに変わらないんだぜ」
「うそっ!全然見えないね」
「娑婆に居なかった分、歳取るのが止まったんだろ」
「そう、そう、その話を聞きたかったんだから」
彼女は十代で結婚したらしいのだが、相手の男はどうしようもないチンピラだったらしい。殆ど仕事などせず、収入は遥がホステスやソープで働いて得た金のみ。夫は、暴力団との付き合いもあったらしく、そのうち覚醒剤にも手を出すようになった。
それを遥にも強要した。これだけでも充分、美幸には衝撃的な話だが、それだけでは終わらない。
夫婦揃って覚醒剤でおかしくなり、その幻覚症状のせいで遥が夫を刺し殺した。5年間、栃木の女子刑務所に入り、仮釈放で出所したのが26歳の時だった。その後、転々として八丈島に流れて来た。