迷宮の魂
「美幸ちゃん、フラッシュバックって知ってる?」
「え?なあにそれ」
「覚醒剤の後遺症で、ある日突然、過去のやな出来事とかを思い出しちゃって錯乱状態になっちゃうやつ」
「遥さんにもそれが?」
「ああ。俺が彼女から夫殺しの話を聞いたのは、その時なんだ」
何でも、エリーで勝巳が友人と飲んでいた時に、同席していた遥が突如泣き喚き出し、どうにも収拾がつかなくなってしまったらしい。
泣きながら切れ切れに話す言葉の断片を繋ぎ合わせてみると、そういう事だった。
この時、遥は夫を殺した状況にフラッシュバックしていたのだろう。
「でさ、俺の高校の同級生に、東京で警察官になった奴が居るんだけど、そいつに調べて貰ったんだ。そしたら、夫殺しの前科だけじゃなく、他にも二回、覚醒剤で刑務所に入ってんだ」
美幸の中にあった遥のイメージは完全に崩れ去り、別な姿となった遥が、醜悪な形で生まれつつあった。
「ママはその事を知ってるの?」
「うん。そういうのこだわらない人だし、ママ自身も若い頃にいろいろ苦労した人だから」
「ママも刑務所に入っていたって事?」
「いやそうじゃなくて、親父から聞いた話なんだけど、ママはやくざの借金のかたにこの島へ売られたんだ。で、金を返し終わったけど、そのまま居着いたってわけさ」
美幸には実感の湧かない話ばかりだった。
勝巳の話を頭の中で映像のように具体化しようにも、想像外の事ばかりだから、ちゃんとした形にならない。
現実の彼女達と何日も接して来ているのに、それが非現実的な相手だったのかという不思議な感覚に陥っていた。
「あの子、エリーに来てもう半年近くなるけど、他の子に比べてお客さんから誘われたりとか無いでしょ。みんな、敬遠してんだよね。最初はさあ、あんだけの美人だから、客達から騒がれたもんだけど、今は誰も寄り付かない」
美幸は、遥自身が客達を避けていると思っていた。彼女もそう匂わせていたが、現実は違っていたのだ。