迷宮の魂
遥とは、あれ以来口を利く事はなくなり、たまに視線が合ったりすると互いに逸らしたりしていた。
一番仲の良かった莉奈は、結局免許も取らず、エリーを辞めて東京に帰ってしまった。
他の子達とは当たり障りの無い付き合い方をしていたから、時々お茶を飲みに行ったり、何人かで浜へ行ったりはしたが、それだけの付き合いでしかなかった。
そのうち、そういう細々とした付き合いも億劫になり、誰もが開放的になる夏を迎えた頃には何時も独りで居るようになっていた。
何とか直也と二人になれる時はないかと様子を窺うのだが、美幸の方から話し掛けたりすると、彼は決まって避けるような態度をした。
追い掛けたら追い掛けた分だけ、彼は離れて行く。
ふと、無理矢理にでも彼の部屋へ押し掛けようかと思う事もあるのだが、そうすると、勝巳から聞いた話を思い出しては、
そうまでして拒まれたらばかみたい……
美幸なりのプライドが、何とか一線を踏み越えずに留まらせてくれた。
勝巳が言っていた遥のフラッシュバックというものを島に来て初めて目にした。
それは、7月も終わろうかという暑苦しい夜だった。
開店した時から遥の様子はおかしかった。
仕事前から飲む事は日常的だったが、この時は何時もよりかなり飲んでいて、相当酔っていた。
ママがまだ出勤して来ていない事をいいことに、客も居ないうちから店のブランデーを何杯も飲みだした。
古くから居る麗奈がさすがに顔をしかめ、遥にやめなさいと注意をした。
何度注意されても、麗奈を無視してグラスを煽った。
グラスにブランデーを注ぐ度に、理由の判らない事を言い始め、終いには泣き出してしまった。
手がつけられなくなり、麗奈がママの家に電話をすると、直也が出、遥を迎えに来ると言って来た。
やって来た直也の顔を見るなり遥は、
「直さん、あたし知ってんのよ。あんたの事、知ってんのよ」
と、酒に潰れた声で喚いた。