迷宮の魂
東京へ戻って来ても、遥には居場所など無かった。いや、東京だけじゃなく、この世の何処にも自分の居場所など無いように思えた。
島を出る時に、多少だが貯えた金があったから、今直ぐどうこうしなければ暮らして行けないという訳ではない。だが、当てが無いというのは、先行きの見通しが立たない分、始末が悪い。
生きようという気力が湧いて来ない。
安いビジネスホテルに泊りはしたが、何時までもそうはしていられない。
自分が蒔いた種だから、こうなってしまった事を今更後悔などしても仕方が無い。
そう思うのだが、夜の東京をふらつきながらふと目にした写真に、
あんたもあたしと同じじゃないか……
と独り言を言って、やるせない気持ちの落とし処を探していた。
その写真と彼は、ぱっと見にはそう似ているように見えない。けれど自分は判った。
中に居た時に雑誌か何かで見た、とある事件の逃亡犯。
坊主頭で凶悪そのものの顔。
自分を撮るカメラを敵意剥き出しにして見つめている険しい目。
彼を見た時、直ぐに気が付いた。多分、普通の人間なら判らなかっただろう。
だが、あたしは気が付いた。彼の全身から漂う匂いが自分のそれと同じだったから。
あの人も居場所の無い人間なんだ。
雑誌に書かれてあった記事を何度も読んでいた。中で同じ舎房の人間とよく話題になったものだ。
「この犯人さあ、写真だとすごい悪そうだけど、よくよく見ると結構いい男だよね」
シャブで四回目の懲役だという真理子が軽口を言った。部屋の皆でその雑誌を回し読みし、口々に好みだのそうじゃないとか、勝手な事を言っては無聊を慰めていた。
あの人の事件は、最初の父親殺しが衝撃的だったのと、彼を逃して刑事を射殺した愛人が自殺した事が重なり合って、長く話題になっていた。しかも、寸前で捕まるところだったのに、逃亡したままになっている。記事はその事件以前に起きた女性の変死事件にも触れていた。