合縁奇縁~女は欲張りな生き物なのです
産休明け後も、向こう一年間は、十時出社、五時退社を許されている私。

時短就労の分、給与はカットされるけど、役職や仕事の内容は変わらない。

当然、処理できる仕事量は減る。

仕事の質は落としたくはないけど、今の時点ではなんとも自信がない。

その上、新設された保育室。

現在、在籍児は祐樹一人。

この六月にもう一人増える予定だとは聞いたけど、それでもなんか、あたしの為に悪いなって思いが頭をよぎる。

だからこそ、気負いがある。

頑張らなくちゃって。

九時半、本社の地下駐車場に樹の車が滑り込んだ。

役員用の車寄せに付け、降ろしてもらう。

「じゃ、行ってきます」

あたしは、ベビーシートから、スリングに祐樹を移し抱き上げた。

スーツの肩にスリングの紐がずっしりと食い込む。

もう祐樹も四キロを超えた。

命の重みが心地よい。

「ユウキちゃん、いってらっしゃ~い」

樹が裕樹の頬をつつき、甘い声で囁きかける。

「もう、止めてよ、気色悪い」

「だって、可愛いんだ。仕方ないだろ」

この二ヶ月、雅樹のいない時など、樹にはホントにお世話になった。

姉弟ながら、樹がこんなに子供好きだとは知らなかったあたし。

「早くあんたも、子供作れば?」

「俺は産めないし。相手の同意が必要だし。まぁ、そのうちなんとかするよ。じゃ」

それ以上の追求を逃れるがごとく、そそくさと車に乗り込む樹を見送った。

さて、と、荷物を抱えエレベーターに乗り込む。

あたしは震える手で、最上階、食堂フロアのボタンを押した。
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