TO-KO

彼は言った。
特別は作らない。作っても、いつか喪うからと。


《大切って何?大事って何?…それもどうせ僕から離れていくものだろう?》


瞳子は、耳に聞こえてきた言葉に思わず、はっ、と抱えていた頭を起こす。今のは――。


幼い、艶やかな黒髪を持った少年が瞳子の脳裏に浮かんだ。その彼が綺麗なテノールを醸し出して言った言葉。
神緯だ。

何でー‥今更思い出したのだろう。彼と彼の目が似ていたがらだろうかと頭を傾げた。
そう言ったときの二人の目が似ていたのだろうか。


気付けば、胸の高鳴りが収まっていることに瞳子は気づいた。頭も随分、冷静になった気がした。


「…そうだわ。シオン様を起こしに行かなくては…」


腕時計を見ると、短針は8を指している。遅いくらいだった。ドアを伝って、立ち上がる。
まだ、足が笑っていて上手く歩けない。
瞳子は自嘲気味に笑い、一歩ずつ長い廊下を歩いていった。
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