TO-KO
「シオン様、起床のお時間です」
コンコンと控え目なノックをする。けして、瞳子は中に入って無理やり起こすような事はしない。自主性を持たせたいためだ。
「はーい。ちょっと待っててください」
しかし、中から明るい声が聞こえてきた。今日はちょっと遅かったせいか、シオンは起きているようだ。
瞳子は、やってしまったと頭を抱える。仕事をこなせない事が一番瞳子にとって嫌なことなのだ。
だが、遅れたのがシオンで良かったと胸を撫で下ろす。
シオンは、この屋敷に居る、瞳子の主の1人だ。この屋敷は幾人かのシェアで成り立っている。そのシェアをしている1人がシオンである。
「ん。お待たせしました!…今日はいつもよりトーコさん、遅かったですね?何かあったんですか?」
ガチャンとドアを開けて出てきた青年。まさに好青年と言わんばかりの容姿だ。茶色のサラサラとした癖のない髪、クリクリしたエメラルド色の瞳。彼は人気のピアニストだ。彼に女性のファンが多いのは当たり前だと瞳子は思う。
裏表のない真っ直ぐな彼には、瞳子も心を開いていた。
先程の彼で良かったと言うのも、けして彼は他人を責めたりしないからだ。今のように心配さえしてくれる。
「いえ。シオン様が心配なさることは何もありません。しかし、遅れて申し訳ありませんでした」
「え?あ、全然謝らなくてもいい…ってトーコさん…」
「はい?」