TO-KO
急に聞こえてきたこれまた美しいテノールに瞳子は振り返る。シオンもまた下げていた頭を上げた。
「ま、マチルダ様!?」
「げっ……マチルダ」
そこには、眠そうに欠伸をしながら此方をじとっと見ている、青年。色素の薄いクリーム色の髪は軽くウェーブを描いている。半分しか開いていない目は、綺麗な空色だ。
彼はもう一人のシェア人で、ライターである。
「…トーコちゃんの反応は間違ってないけど、シーの反応違くない?何だよ、げっ、て化け物みたいじゃん僕」
ふぁぁぁと堪えきれなかった欠伸をして、シオンを睨みつけるマチルダ。
「シーって言うなっ!シーって!第一、本当はお前なんかにかける言葉なんてないんだっ。げっ、って言ってもらっただけありがたいと思え!!」
「は?なにその屁理屈。…子供だねぇ、シーは」
「だからっ、シーって言うなって言ってるだろ!?何だ、何だ!?馬鹿にしてるのか、お前は!!」
「うん、馬鹿にしてるね」
「くぅぅぅぅ〜!!お前、覚悟してろよ!!」
「分かった、分かった」
瞳子は、目の前で起きている痴話喧嘩に少し気が遠くなった。
いつもこうなのだ。
シオンとマチルダが顔を合わせると必ず口論が始まってしまう。
二人曰く、馬が合わない、そうだ。
二人はとっくに成人を迎えているはずなのにこの姿を見ると、ただの子供、いやガキだ。
まぁ、この世界の成人が本当は何歳なのかは知らないが。
瞳子は溜め息を1つ吐いた。