短編小説集
「おまえさぁ、いつもそうやって笑えばいいのに、美人なんだから。そしたら友達もできるだろーに」

「そうですね。そしたら同級生の彼氏もできたかもしれません」

「悪かったな、おっさんで」


そこまでは言ってないのに、彼は拗ねたような顔


これのどこがおっさんなの


まるで子供みたい


「今日、家行くからな」

「今日ですか?」

「ご両親に挨拶しないと。殴られんだろうな、俺」

「父は穏やかな人だから、殴りはしないと思うけど」

「いやいや、父親ってのはさ、こう言うときには誰でも頑固親父になっちゃうもんなんだって」

「そうですかね。まぁ大丈夫ですよ。私が好きになった人ならちゃんと理解してもらえるはずです」

「なんでそんな落ち着いてられるかねぇ。緊張してる俺が馬鹿みたいじゃん」


また拗ねたような顔


そんなこと言ったって、緊張なんかするわけがない


彼には内緒だけど、両親にはすでに話をしてある


卒業したら結婚したい人がいる


担任の先生が恋人だって、父と母には話した


最初こそ戸惑っていたけど、二人は私の話を真剣に聞いて真剣に考えてくれた


だから、就職も進学もしないなんてことが許されたんだ


結婚については、彼に会ってから決断すると言われた


私は二人に、私から話をしたことは内緒にして、と頼んだ


たくさん緊張してくれればいい


その方が"先生"じゃなくて"ただの男"に見えるから


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