短編小説集


体育館に上がり込み、まっすぐステージに向かって歩く


誰もいないなんてそんなホラーなこと、認めたくない


怖くて夏休み明けから体育館に近づけなくなるではないか


足音を殺してステージに近づいて段々と見えてきた演奏者の姿に安心と同時に驚きを覚えた


ピアノを弾くにはあまりにも似合わない、青いジャージが見えたから


「...先生?」

「やべ、見つかった」


引き吊った笑みを浮かべたのは、体育担当の小林先生だった


「先生が弾いてたんですか?」


何となく信じられなくて、ステージの下から問う


先生は照れたように頭をかきながら頷く


「斎藤はこんなとこでなにしてんだ?とっくに下校時刻は過ぎてんだろ」

「あ、そうでした。少し探し物を」


思い出して振り返り体育館の床に目を走らせる


ものが落ちているようには到底見えなかった


ここにもない、か


「何を探してるんだ?」

「ストラップです。赤いレザーの、見ませんでした?」

「見てないな。大切なもんなのか」

「まぁ、そうですね。友達とお揃いだったんです。死んじゃった友達」


なんで話してしまったのか、今でもわからない


なんでかサラッと、口から出てしまった


「事故に巻き込まれて、中三の時だったんですけど。本当ならこの学校に一緒に進学するはずでした」

「そうか」


先生はそれだけ言うと立ち上がって、ステージの上から簡単に飛び降りる


そしてしゃがみ込むようにして、床に目を走らせた


「先生?」

「一緒に探してやるから、ほら、おまえも探せって」

「あ、はい」


言われるまま、私も床に膝をついて探し始める


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