短編小説集



結局ストラップは落とし物として職員室に届けられていたのだが、そんなことを知らない私たちはたっぷり二時間かけて校舎内を隈無く探すことになった


「先生、ピアノ弾けるんですね」

「ん、まぁ少し。斎藤、それ秘密な」

「なんでです?」


お互い床を見つめていた顔を上げて目が合う


「恥ずかしいじゃん、こんな成りしてピアノって」


確かに、とは言わないでおいた


完全に体育会系な先生には、確かにピアノは似合わないけど


「でもすごく、綺麗でしたよ。ピアノはあんまり知らないけど、もっと聴きたいって、演奏してる人が見たいって思いました」


先生は顔を真っ赤にして照れた


誉められることが苦手なタイプなのかもしれない


それ以降会話が弾むことはなくて、お互い黙ったまま床との睨めっこを続けた


通りかかった他の先生が職員室に届けられていることを教えてくれなければ、今度は学校中のゴミ箱をひっくり返していたかもしれない


私はそこまでするつもりはなかったけれど、先生はやりかねない雰囲気だった


「どんなオチだよ。あー疲れた」

「すいません、ありがとうございました」

「まぁ、見つかって良かったな」


そう言って浮かべた笑顔が好きだと思った


たぶん私は、あのピアノの音を聴いたときにはすでに、この人に堕ちていたんだと気づく


「じゃ、気を付けて帰れよ」


淡々と学校生活を送るつもりだった


間違っても教師と恋愛なんか、するつもりはなかった


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