短編小説集
他の先生は忙しいらしい
教師と言うのは私が思っている以上に仕事が多いのかもしれない
「やべ、もうこんな時間か」
先生の声に、黙々と動かしていた手を止めて時計を見上げる
七時を過ぎていた
「帰った方がいいよな、もう」
「でもまだ終わりませんよ?」
「確かに」
残っている資料の山を見て、先生は困ったような顔をする
生徒に遅くまで手伝わせるわけにもいかないけど、これを一人で片付けるのも無理だと判断したらしい
「斎藤、家に電話してくんない?」
結局先生が私の家に電話で帰りが遅くなることと、帰りは自分が家まで送ることを説明して、私は最後まで手伝うことになった
全部が終わったのが八時を少し過ぎた時間
正直これ以上二人でいるのは嫌だったし、電車だってバスだって帰る手段はいくらでもあるし
先生の車で送られるなんて、本当に勘弁してほしい
「ダメだって!お母さんにも家まで送るって言っちゃったんだから」
「いやでも、生徒を車に乗せたりしたら何言われるかわかりませんよ?」
「大丈夫大丈夫。こんだけ暗くなったら車の中見えないし、だいたい疚しいことなんかないんだから」
「でも」
「いいから早く乗りなさい」
ずるいと思う
こんな時だけ、命令口調なんだもん
どうやら粘り負けしたようで、私は大人しく助手席に乗り込んだ
それを確認して先生も運転席に乗り込むと、すぐにエンジンをかけて車を発進させる
「ちゃんと案内してくれよ」
「わかりました」
それっきり、車内で会話が弾むことはなかった
聞いたこともない洋楽が流れていて、それを先生が小さく口ずさんでいて
私はそれを子守唄に、窓に頭を預けて眠ってしまった
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