ガラス細工の花と機械仕掛けの白の翼
信じられない現実に思わず辺りを見回わしたが、身体を預けた大木も、傍らのうさぎの穴も、昨日と何ら変わりは無い。
彼はもう一度、前を見た。
その表情は険しく、眉を顰(ひそ)めている。
しかし、どんなに眼を凝らしても、彼の前に広がる風景が変化する事も、消える事も無い。
すべて現実なのだ。
彼は意を決して、開けた場所へと足を踏み入れた。
そこは太陽の光がさんさんと降り注ぐ、とても暖かく美しい場所だった。
まさに、夢の中の風景とピッタリ一致する景色。
濃い緑色の大地。
キラキラと反射する水面。
美しい湖。
灰色の塔の一番上には、取って付けたような小さな窓。
塔の扉には何重にも鎖が巻き付けられていて、厳重に大きな南京錠が掛けられている。
パキ……
緑色の大地に足を踏み出した時、細い金属が折れる様な音が靴の下から高く響いた。
はっと、大地に視線を落とすと、まぶれるように咲き乱れる銀色の花。
それは塔に近づけば近づく程、量を増していて。
まるで、塔を守るような威圧感があった。
恐る恐る足を上げてみると、靴の下には粉々に砕けた銀色の花があった。
屈み込んで、足元の花に手を伸ばして折ってみた。