ただ あなただけ・・・

「どこか行きたい所はあるか?」


「いえ・・・家に帰ります」


「・・・なら、今日はおあずけだな」


五十嵐は妃奈の手をひき、玄関に向かった。すると、待ち構えていたかのように、扉の前で身なりのいい中年男性がお辞儀をしている。


服装からして、このホテルの従業員だろう・・・妃奈はつられてお辞儀をした。目に入ったものは男性の胸に付いている名札。


それには「支配人」と書いてある。彼は私を見て驚いているようだった。


「五十嵐様、いつもお世話になっております。もうお帰りになるのですか?」


「ああ・・・今日は一人では無いので」


五十嵐は繋いでいた手を離し、妃奈の肩を引き寄せた。支配人は満面の笑みになり、目を細めた。

「この度はラ・パリールグラウンドにお越しいただき、誠にありがとうございます。気に入っていただけたでございましょうか」


「はい。とても素晴らしいホテルですね。贅沢したい時はここにします」


「その時はよろしくお願いいたします」


「では、また来ます」


「またのお越しをお待ちしております」
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