揺れる
 その人が降りる駅と私が降りる駅が一緒で、私の気持ちは昂揚する。



 私はその人に見ていることに気がつかれないよう、斜め後ろ辺りを歩く。



 その位置からその人を窺う。



 ただの憧れだったのかもしれない。



 近づかなくても、表情を見るだけで私は満足していたのだから。



 そんなある日、その人が異性と話をしているのを見かけた。



 いや見かけてしまった。


 それを見ないように、声を聞かないよう、目を耳を塞いでおけば良かった。



 楽しそうに会話をするその人の表情、声を受けて私は立ち尽くしてしまった。


 ただの憧れだったはずなのに、私は涙を流してしまった。



 改札口で人込みに埋もれることを忘れ、立ち尽くしたまま涙を流し、その人の横顔を見つめていた。
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