元気あげます!巴里編
「俺は昔、好きな女と親友だと思ってたやつに裏切られて、それ以来、俺のテリトリーに踏み込もうとするやつは拒絶して生きてきた。
とくに女は・・・。」


「あ・・・。私が工房にやってきたときも恐い顔してにらんでましたよね。
たしか。」



「ああ。女の見習いは、同僚のパティシエやパーティー会場の方が気になるやつばかりだったからな。
チーフもわかっているんだろうが、俺の知らないコネ?とか別の世界で力のあるやつの紹介で仕方なしにっていうのはずっとあるんだろうと思ってた。

それに、女はすぐ泣いてやめちまうからな。」



「私も泣きました。言葉もつめこみで覚えたてだったから、心細くて、それでいて、技術を身につけなきゃって追い詰められてて。」


「だがひかるは泣きながらでも、がんばってたから不思議な女だと思った。
日本人はそうなのかとも思ったけど、リュウにきいたらそうじゃないって教えてもらった。
ひかるは同僚と仲良くつきあってはいるが、気持ちはいつもボールの中だったよな。
ずっとなぜなんだって気になってた。

そんなに菓子作りが好きってわけでもなさそうだし、パティシエ志望じゃないだろ。
それなのに、技術を貪欲に盗みに来る。」



「ええ、そうでしたっけ?
今もそうですけど、ただ必死にあがいてるだけですよ。」



「そうだな。ただ必死にがんばってるだけの行動がな、気になってしまったんだ。
泣きべそかきながら、コツコツ努力してる女なのに、涼しい顔して努力なんて全く無縁みたいな天才男と暮らしているなんて誰が思うかって・・・。」


「そういわれれば、そうですね。
千裕様はほんとに、何でも器用にやっちゃうし、仕事で追い詰められてそうでも、いつも余裕の顔してる。」



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