元気あげます!巴里編
「ひかるにも驚かされたけど、千裕にはもっと驚かされた。
平気でおまえに発信機を取り付けてたこともそうだが、ニヤニヤして俺の前に現れて、俺が必死で考えたレシピを簡単にアレンジしていいものにしやがった。
悔しくて、あいつの素性を調べまわったら驚くべきことばかりだった。
マジでこんな天才が存在していいのかと思った。
でもな・・・そんな天才がなりふりかまわず、取り乱したり、苦痛に顔をゆがめたのを見た。
たったひとりの女のためにな・・・。」
「腹立たしく思いましたか?」
「いいや、その逆だな。誤解しないでほしいんだが、ひかると千裕といるとすごく楽しい。
ひかるに俺の彼女になってほしいと伝えたし、その気がないのはわかってるのに、楽しいなんておかしいよな。」
「ごめんなさい。私、セルジュさんに甘え過ぎですよね。
助けてもらってばかりで、ずうずうしいにもほどがあるなって・・・。」
「それは、俺のきまぐれだったり、性分なんだから気にするな。
それとな、最近はおまえのおかげで女性に対する希望みたいなものを抱けるようになった。
千裕から聞いたんだが、女だって本気で守りたいものや、頼りたいものがあれば一途な人間だって。
でなきゃ、母親にはなれないだろってな。」
「千裕様らしい説明ですね。」
「さ、そろそろ帰るか。
今日はゆっくり話せてよかった。
工房での修行もあと少しだし、話ができないままひかるが日本に帰ってしまうと思うと心残りになるところだった。」
「お礼をいうのは私の方です。
私も千裕様もたくさん助けてもらって、お礼いいつくせないです。
もっと、いっしょにムースやケーキを作りたいです。ほんとに・・・」
「俺もだ。ヴァレリアさんのところも今年までって契約になってるんでな。
来年はどこで働いてるか、わからないんだよな。
まぁ、パリにはいるから家はそのままだろうけどな。」
「いいところが紹介されるといいですね。」
「ああ。じゃ、また明日な・・・。」
ひかるは、あらためて自分なりの実業家修行が終わりに近づいたのだと思いました。