元気あげます!巴里編

ひかるは頼りなげに話す千裕といっしょにいるのもいいなと思いました。
自信家の千裕は高貴で忙しくて、尽くしてもらうのがつらいときもあったけれど、ひかるがそばにいるだけでうれしそうにする表情を見ると自分もうれしくなるのでした。


それから、ひかるは千裕を連れてパリの家にもどってきました。

琴美の屋敷の大きさにおどろいている千裕を見て、出迎えた琴美はポロポロと涙を流して泣きました。


「泣かないでください。この通り、見た目は元気なんですから。」


「見た目元気だから、悲しいのよぉ~~~~。
記憶がないなんて冗談よね。」


「それが・・・すみません、琴美さん。」


「だって、今も私のことをおばあちゃんとは言わないじゃない。」


「それは、飛行機に乗ってる間、ひかるにいろいろと教えてもらったから。
でも、僕は落ち込んでないですから大丈夫です。

記憶が消えても、ひかるや周りの人たちがいっぱい支えてくれてるのがわかるから、やっていけると思います。

ひかるの話だと、もともと僕はかなり器用な人間のようですし、自分でも驚いたのは家事とかお菓子作りがスイスイできてしまいました。」



「そう。体で覚えたことは残っているということなのね。
わかったわ。
あなたがそういうなら、私の仕事を手伝ってもらうというのはどうかしら。

いいリハビリにならないかしら。」


「僕でも出来る仕事ですか?
できれば、あまりたくさんの人にはまだ関わりたくないんですけど。」



「そうねぇ。それじゃ、お皿やエプロンなんかの絵を描いてくれないかしら?
千裕は小さいときから絵が上手だったじゃない。」


「絵ですか・・・?いきなり商品用の絵なんて・・・。」



「琴美さんはリハビリを兼ねて言ってくださっているんだから、絶対描かなきゃいけないって思わない方がいいよ。
ね、琴美さん。」


「え、ええ。そうよ。とりあえず描いてみてってこと。
うちはたくさんのデザイナーや絵描きさんと契約してるんですからね、その中からスタッフみんなで相談して、商品用は決定してるのよ。

いくら千裕の描いた絵だからって特別扱いにはしないわ。」



「そういうことなら、僕やってみます。」





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