禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「……どうして、お菓子をあげているんですか」

「どうして? ……それを、お聞きになられますか」

人形のように固まって戸を見つめていた彼女が、動いた気配がしました。わかります。たぶん、私へ振り返ったのでしょう。けれど、私は店の外を、眩しい路面を見つめることに集中しました。なぜか今、香蘭さんの顔を見る勇気が出ないのです。

「弥栄子さまは……」

改まった彼女の声は、まるで琴でも奏でるように稟、鈴、と。

「泣いている子供を放っておくことが、できますか?」

「……それは……」

「もとは、人間の子供にございます。ただ、この世から不憫にこぼれてしまった、まだ幼い魂を、弥栄子さまは捨て置くことができますか?」

「……」

お化け相手に同情を抱けるか、哀悼を捧げられるかと言われても、ピンとこないのが正直な感想です。私はお坊さんでも、神父でもありませんし、おそらく、そういう〝気遣い〟からは対角線にいるジャーナリストです。

ですが、香蘭さんの物言いは、お化けにお菓子を与えているというよりも、本当にただ、泣いているかわいそうな子供をあやしているようでした。

ただ、それだけの、心遣い。

「……そうですね。……変なことを訊きました」

「……」

「泣いてる子がいたら、私だってどうにかしたいです。泣きやんでほしいし、そのためにお菓子をあげるのだって、別におかしなことじゃないですよね」

「はい」

そこでようやく見上げた香蘭さんは、とても可憐に、笑っていました。
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