堕天使の銃声
「はい、どこかにおられる、誰かのお陰で。」
ニコッと笑いながら毒を吐く彼に、私はとりあえず、笑顔を返した。
しばらくすると、携帯が鳴った。
【涼】
ディスプレイに表示された名前に、電話に出ることに躊躇いを覚えながらも、出た。
「はい、もしもし?」
「ああ、俺だ。
首尾はどうだ?」
「特に問題はありません。
順調に進行しています。」
「わかった。
ホテル前に着いたら、杉浦准尉から連絡を入れさせてくれ。」
「了解しました。
では、失礼します。」
電話を切ると、後部座席から声がした。
「…兄貴からか?」
「違います。
総司令…上司からですよ。」
尋ねてきた野田に、そう答えると、葛城も口を開いた。
「総司令は、お前の唯一の肉親だろう?
上司、部下の関係で、何とも思わないのか?」
「思いません。
むしろ私は、これで良いと思っています。
だってそうでしょう?
“失って悲しむくらいなら、最初から背負わなければ良い”
家族も、大事な人も、大事なモノも、すべて。」
そう答えると、バックミラー越しに見た二人の表情が、暗く沈んだ気がした。
「…いらないのよ、人間らしさなんて。
だって私は、魔女となる存在なんだから…」
私の口を使って、凛が呟いた。
でも、訂正はしない。
だって、その通りだから。