声恋 〜せいれん〜
ドアが開いて、子供みたいな笑顔のおじいちゃんが顔を出した。
「おや、いらっしゃい」
「どうも。お久しぶりです」
おじいさんはわたしのほうをチラッと見ると、足下に目をやった。
「おじょうさん、それで転ばないように気をつけな~ね」
むっ。なにそれ。そりゃヒールの高い靴はいてるけど。こういうの履きなれてないけど! だからって今ここで言うことじゃないじゃん。なんなの?
なーんかバカにされたような気分でいると、蓮也さんは一人でさっさと入ってしまった。
あ~、待ってってば~。
わたしたちが中に入ると、おじいちゃんはまた入り口の鍵を閉めた。
「あんまり一度に、歩いたらいけんね」
誰ともなく、つぶやくおじいちゃん。
お店の中に入ってみると、空気自体がずっと昔の、古い感じがした。
「わぁ…」
下手にしゃべりすぎたら、この空気を、時間をみだしてしまう。そんな緊張感があった。
ま新しい自分という存在が、すごく子供っぽく、幼稚に思えた。