声恋 〜せいれん〜
「ほら、着いたぜ」
バイクで走ってる間は、ぎゅう、って無我夢中で蓮也さんにしがみついてて、それが終わってホッとしたような…ちょっと残念なような。
ヘルメットを脱いで大きく深呼吸したら、うしろにいる蓮也さんが、笑った。
はぁ…そうやって笑うときにもれる息までが、すてきすぎる。
そしてその息は、潮風にのって、ふたりきりの広い夕刻の海岸に舞う。
「太陽が…大きい」
やわらかく、静かに、波がわらっている。
きらきらした、宝石をまとって。
なにもない地平線に沈みかけの太陽が丸く、うかんでいる。
「ここにさ、陽菜を連れてきたかったんだ。オレの、とっておきの場所」
やわらかい風でやや髪をゆらしながら、蓮也さんがいった。
「蓮也さんの…とっておきの場所?」
「ああ…なにかイヤなことあると、必ずここに来る。声優になったばかりの頃は、ここでよく発声練習してた」
「そうなんですか! へぇ~、ここで練習かぁ。ふふっ、なんか気持ちよさそう!」
「思いきり声出せるからな。あとは…たまに歌ったり…」
「えっ、歌!? あ、あの蓮也さんっ、今とつぜん歌いたくなったりしてませんか!? わたしにかまわず、どうぞどうぞっ!」
「ふっ…ばーか」
ちょい、っておでこつつかれちゃった。えへへ。