声恋 〜せいれん〜
「文化祭のときあんた蓮也の演技に気づいたでしょ。まわりとあわない演技をするとすごく浮いちゃうって。きょうの桜木さんはそれだったよ」
二人でスタジオをあとにする。外はもうすっかり夜だった。
となりで歩く塔子さんがなにかしゃべってたけど、なにも耳に入らなかった。蓮也さんとのこともショックだけど、演技のこともあわさってズッシリと心と体を重くしていた。
頭の中がガンガンする。視界がせばまって、あたりがみょうに暗い。
地面がゆれる。気分が悪くなる。
(やば…吐きそう…)
そう思って手に口を当てたとき、見慣れたバイクと人の姿が目に入った。
「…」
「れんやーっ、こっちこっち」
蓮也さんが軽く手を挙げる。塔子さんに向かって。そして軽く目線を送る。これはわたしに向かって。
「バイクあっちにとめたから。とってくる」
そう言って足早に去る塔子さん。蓮也さんと二人きり…と思いきや、となりにもう一人。あ、米本さんいたんだ。
蓮也さんはすぐにわたしから視線をはずすと、また米本さんと話だした。
わたしは…?
ねえ、わたしはどうなるの…? 塔子さんと、いつから…?
わたしはみじめに、その場に立ちつくしていた。なにをどうしていいのかがわからない。
バイクの音を高鳴らし塔子さんがやってきた。
三人ですこし言葉を交わすと、蓮也さんが一度だけこちらをふりむいて言った。
「じゃあな、がんばれよ」