声恋 〜せいれん〜




「桜木さんさぁ、髪切ったら。暑いし、うざいでしょ」




夏真っ盛り。クーラーの効いた室内でも運動していると汗が吹き出る。




柔軟で組んだすずさんが、急に話だした。




「あ?! え?! いや、なんか、長い方が、落ちつくな~、って思ってたんで…」




そうなのだ。以前はセミロングでよくシュシュでまとめていたのだが、いろいろあって切らないうちにこの長いのに慣れてしまったのだ。




それに、顔をふせると髪が世界を隠してくれる。わたしの表情を隠してくれる。髪がちょうどいい世間との“壁”になってくれていた。今のわたしにはとてもいごこちのいい、必要な壁だ。




「そんなんじゃくらーい子になっちゃうよ? 声優って、ただでさえ陽の当たらない裏方作業なのに、よけいにくらーくなっちゃうよ?」




…そうなのだ、この子、けっこうズバズバものを言ってくるのだ。ふだんもアイドルってことで天然のふりをして言いたいこと言っちゃってるけど、男性はそれを見ぬけない。あれは本当に不思議だ。ま、裏表のないところは、いいんだけどね。




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