声恋 〜せいれん〜
「…千明さん」
あわてて立ち上がろうとしたが、すでにわたしは彼女の眼中になかった。
「塚本さん、その気色わるいものは何かしら」
「え? これ? 金目鯛だけど。知らない? 本日の煮魚定食。うまいよ」
「そんな気味の悪いもの、よく食べられますねぇ、アイドルなのに」
ふふ、っとバカにしたように笑う千明さん。うしろの取り巻きたちがイヤそ~うな顔をしてわたしたちを見る。
フッ、と笑って千明さんを見すえるすず。なんかドラマのワンシーンみたい、なんてぼんやり見ていたら、急にすずが大きい目をさらにクリクリとさせて、一瞬にしてアイドルの顔と声になった。
「このおいしさがわからないなんて、千明ちゃんかわいそ~う! お魚さんを食べるのは健康にすごくいいのに~、千明ちゃん、モデルさんなのにそんなこともわかんないのぉ~?」
「…ちゃんとサプリで栄養とってれば、そんなもん食わなくてもいいんだよ!」
「あ~、だからそんなに不健康そうに痩せてるんですね~。それじゃあ男の子たちに、モテないぞっ!」
そういって自分のホッペを両手でプニッっと持ち上げる。そう…男性にモテるのは、「やせすぎ」の女よりも「ほどよい肉」がついた女…優一くんのお姉さんも、そう申しておりました…。
「ぐっ…。まあ、あんたのことなんかどうだっていいわ。それより桜木さん?」
「ハイ?!」
「もうわたしたちの輪に入らないでくださいね」