声恋 〜せいれん〜
「…あ、わかった、桜木さんの身体の匂いだ。ボディーソープの…なんだろ? 桜の香り?」
あ、なんだ、そういうことか。
「ふふっ、あったり~♪ 春だし、名前の通りわたし桜が好きなの。最近ずっとこれ使ってたから、部屋にもこの香りがついたかな?」
「すごーくかすかに、だけど…それにしてもこの部屋すごいね。女の子の部屋って感じ。うちの姉貴の部屋とは全然ちがう…やっぱ女の子はこういうのが好きなのかな…お姫様って感じだよね」
「うん! すごいでしょ! まずこのベッド!」
天使のようなレースの天蓋付きのベッド。一番落ちつける、わたしだけの空間。
壁には大好きな西洋のお城の写真、本棚にはお気に入りの絵本がぎっしり(マンガ類はその裏に…)、サイドテーブルにはテレビがあって、棚のあちこちにはクマのヌイグルミやお人形がいっぱい。一番おっきなクマのルーニィは子供のときからの友達だ。
ポールハンガーにはお気に入りの帽子や小物を飾って、なにより自慢なのはこのおっきな鏡。この前で…。
「これの前で、いつも自分のファッションチェクしてそうだよね、桜木さん」
鏡に映るわたしに向かって、優一くんが先に話し出した。
「へへっ、バレた? あ、あとこの壁に沿わせてあるライト、これが点くとすっごくいい雰囲気になるんだよ~」
そういってわたしは部屋のライトのスイッチをつまんで、じょじょに明るさを下げていった。すると自動的にちっちゃなコードライトたちが淡い光を生みだしていく。
「うわぁ…すごい。きれいだね」
「うん…」
わたしたちの周りにゆっくりと夜の帳がおりてきて、優一くんの姿がやわらかく浮かび上がる。
「あっ…」
「きゃっ」
優一くんがつまずいた。
わたしにもたれかかる…。