声恋 〜せいれん〜




「ぼくも昔…といってもまだ小学生だったけど…親に連れられて声優のオーディションに行ったことがあるんだ。そこで審査員の大人にすごくほめられてさ。引っ込み思案で家で本やテレビばっかり見ていたぼくをなんとかしようという、親心だったんだろうけど。




…それでぼくもすっかり合格した気でよろこんでたら、あとで届いたのは養成所の案内のパンフレットだけ。要はただの勧誘。今から思えば、なんの経験もないぼくが受かるわけないんだけど、親の期待にこたえられなかったのががっくりきちゃて…、それでちょっと声優嫌いになっちゃって…




ゲームやアニメは好きなんだけど、“声優”って聞くとと思い出してしまうんだ…あのときのこと…だから…あのときはゴメン」




まっすぐに心の内を語ってくれた優一くん。




わたしもいつの間にか、ルーニィをひきよせてギュッと抱きしめていた。




なんだかわたし泣いちゃいそうだったけど、かわりにもっと、ギュッギュッって、抱きしめた。




「ん…あやまることないよ! かなしいよね! 周りの人を喜ばせようと思ってしたことがうまくいかないと。でも、その気持ちは間違ってない! 期待にこたえられなかったなぁってがっかりしているほうが、もっと周りの人を悲しませちゃうから。喜ばせようと思ってしたことだからいいんだよ! 優一くんはがんばった! その気持ちだけで、じゅうぶんうれしいよ!」




わたしはそこで優一くんのこともギュッと抱きしめてあげたかったけど、それはやっぱり…ね。




あ、いや、そんなこと言ってる場合じゃない、これこそチャンスだよ、わたし! やっぱり優一くんいじょうにこんな事お願いできる人いないもん!




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