声恋 〜せいれん〜
「う~…ん」
登校時、わたしが夜にメールで送った音声を聞いた優一くんが、それの感想をいう。
陽射しはじょじょに熱くなる。
優一くんも、学校に行きがけの時間でもヘッドフォンで何度も聞きながら、わたしの声と格闘している。
「…どれもこれも全部同じに聞こえる」
「えーっ、なにそれ!?」
「ぜんぶ…『桜木さんが演じ分けているだけ』って感じ。演じ分けが出来ているってことは、演技は出来ているってことに、なるんだろうけど…なんというか…面白みに欠けるというか…」
「そんなこといったって、全部わたしだもん。それに、それぞれがどんな見た目でどんな性格かなんて、わかんないよー」
「アニメでアフレコするときも、そこまでかっちりとキャラが出来上がっている場合ばかりじゃないみたいだけどね。アフレコ時に作画が間にあわなくて、画面にはキャラを表す『線』しかなくて、それだけで声をあてなきゃいけないってのもあるみたいだから。海外のアニメはそういう手法が多くて、声にあわせて絵をつけるっていうけどね」
「えー、線だけって…」
なんか、味気ないっていうか…つまんない。
「だからどれだけ、あたえられたキャラになりきれるかだけじゃなく、自分でも『想像力』を鍛えておかなきゃダメだって、ことだろうな」
「むぅ~」
「あ、あと、桜木さんが砂浜に行ってヒールとかだったらちゃんと脱いでね。そういう『女心が変な方向にいった女』って、男は嫌いだから。場所と状況をわきまえる頭の良い女性が、男は好きだから」
「むう〜。そちらもきびしいっすね〜」