声恋 〜せいれん〜
お題は「観覧車内でのやりとり」
今朝も優一くんがヘッドフォンで、わたしの声に集中している。
(わあ…! 見て見て大地さん。人があんなに小さい。建物も、どんどん小さくなってく)
(星にどんどん近づいてく。あ、もう少しで、頂上ですね。あの…大地さん)
(…はい。そういうおまじないがあるんです…頂上まで上がったら…キス…をすると…そのふたりは…)
優一くんが聞いているであろうわたしの声を、わたしも心でくり返す。
どうかな…。うまく気持ちがこもってるかな…?
今朝も先生の厳しい一声が、でるか? ドキドキの瞬間。
「…」
あれ? 優一くん顔をそむけちゃった。どうしたんだろ?
「あれ…ダメだった? 思いっきり美咲になりきって、演じたんだけどな~」
なんでまだ、あっちむいてるの?? 優一くん。
「ねえ、どうしたの? どうしたの?」
しつこく聞くわたしに、優一くんは一言。
「…よかったよ」
と言ってまたむこう向いちゃった。
ん? よかった、って…それだけですか?
「えー? 先生それだけですかー? もっとこう、具体的にどうよかったとか、アドバイスしてくださいよぉ~」
なんか今日の優一くん、手応えがなくてつまんない。もっとこう、クールに突き放してほしいわ。
「うるさいなあ…よかった…すごくかわいかったっていってるんじゃん!」
え…?!
次の瞬間、わたし、ぷはーって大笑いしそうになったけど…。
なんでかな…。
できなかったよ。
なんだかその一瞬だけ、世界が止まったから。