声恋 〜せいれん〜




お題は「観覧車内でのやりとり」




今朝も優一くんがヘッドフォンで、わたしの声に集中している。




(わあ…! 見て見て大地さん。人があんなに小さい。建物も、どんどん小さくなってく)




(星にどんどん近づいてく。あ、もう少しで、頂上ですね。あの…大地さん)




(…はい。そういうおまじないがあるんです…頂上まで上がったら…キス…をすると…そのふたりは…)




優一くんが聞いているであろうわたしの声を、わたしも心でくり返す。




どうかな…。うまく気持ちがこもってるかな…?




今朝も先生の厳しい一声が、でるか? ドキドキの瞬間。




「…」




あれ? 優一くん顔をそむけちゃった。どうしたんだろ?




「あれ…ダメだった? 思いっきり美咲になりきって、演じたんだけどな~」




なんでまだ、あっちむいてるの?? 優一くん。




「ねえ、どうしたの? どうしたの?」




しつこく聞くわたしに、優一くんは一言。




「…よかったよ」




と言ってまたむこう向いちゃった。




ん? よかった、って…それだけですか?




「えー? 先生それだけですかー? もっとこう、具体的にどうよかったとか、アドバイスしてくださいよぉ~」




なんか今日の優一くん、手応えがなくてつまんない。もっとこう、クールに突き放してほしいわ。




「うるさいなあ…よかった…すごくかわいかったっていってるんじゃん!」




え…?!




次の瞬間、わたし、ぷはーって大笑いしそうになったけど…。




なんでかな…。




できなかったよ。




なんだかその一瞬だけ、世界が止まったから。




< 65 / 286 >

この作品をシェア

pagetop