声恋 〜せいれん〜
ふうぅっ、とため息をついて優一くんがヘッドフォンをはずす。
「…でも、この彼を奪った女の演技、すごかったな」
わぁ、やったぁ、優一くんまたほめてくれた!
「うん、私の好きな人が、取られたらすっごいやだなぁ、って思いながら、そのいやぁなことをやってくる、いやぁな感じの人を思い浮かべて、やってみた!」
「ふぅん…じゃあ、桜木さんも他の人の彼氏を奪うときは、すっごく『いやぁな人』になっちゃうんだ」
「えーっ、いやいやいやいや、なりません、なりませんよぉ! だいたい、好きな人がいる人を、好きになっちゃいけないんだからぁ」
「え、そうなの? 好きになったらたとえ相手に恋人がいようが旦那がいようが、関係ない。ホレた男に『好きだ』といわせるのが女の幸せ、じゃないの?」
「まったあ~、そんなことしちゃいけませんよっ。わたしは絶対そんなひどい事しないし、言いませんからねっ!」
「ふーん」
「ふーん、って、もう…」
このときの優一くんとのやりとりを、何度も思い出す。
何も知らなかった、むじゃきなあの頃のわたしに…
なんて声をかければいいの?