凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「起きろ」
最後に口内の布を取り出してくれ、少女は冷たく言い放った。
縛られていた肌が微かに赤く染まっている。私はそこを撫でてから少女を見上げた。
「…あの、」
「お前、娘だったのだな」
遮るように言い、少女は私の胸元を顎で示す。
つられて目線を下げると、きちんと留めてあったはずの制服のワイシャツのボタンがところどころ外れたり、掛け違えられていた。あれ、おかしいな…。
そこで思いつく。さっきの台詞。そして衣服の状態。
まさか……見られたッ?!
バッと勢いよく顔を上げ、目で訴えると少女は相変わらず無表情のまま口を開く。
「安心しろ。確かめただけだ、何もやましいことなどしていない」
「確かめ…?」
「髪を結っていないからな…最初見たときは男だと思った」
確かに、私の髪は長くない。肩につくかつかないかくらいの長さ。そしてほんのり茶色に染まっている。
「間者になるために、わざわざ髪を切り女を捨てたのだろう?それほどまでに長州の幕府への恨みは強いのだな」
少女は感慨深げに頷く。
……ちょっと待って。
間者?長州?幕府?
歴史の授業で一度は耳にしたことがある単語たち。たいして珍しいものではないのに、さっきからこの人の言っている意味がわからない。何か…例えようのない、大きな不安がすぐそこまで迫っている。この少女が何かを話す度に、私を襲うため大きく口を開く。
「まぁ、良い。お前の目的は、」
「あのッ!!」
今度は私が遮った。
胸中で大きく波打つ不安。尋ねれば確実に何かが崩壊する予感がした。けれど、渦巻く疑問を尋ねずにはいられなかった。
「ここは、ここは……どこなんですか…?」
心なしか声が震える。