凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「ほんまやで!そいつの両親にも一応聞いたら〝かわいそうやで連れて来たり〟って言ってくれはったんやわ」
好機到来。ここぞとばかりに平田は畳み掛ける。
「そいつらは今夜、京を発つ。君も一緒に逃がしたげる用意はできてるから、今から待ち合わせ場所に行きましょうよ?」
幽閉されている私には魅惑的すぎる言葉たちを従え、平田はにこにこしながら立ち上がる。つられて立ち上がりそうになる寸前、東雲さんの声が体中に響いた。
『逃げようとすれば…容赦なく、お前を斬る』
―――っ!!
「どうしたん?」
自分に続かず躊躇う私の姿に平田は不思議そうに訊く。
「ここからどうやって逃げる気なんですか?」
掲げるのは尤もな疑問。ここは屯所内。言わば新撰組の本拠地。
「あーそれは大丈夫やって」
平田はへらっと薄く笑う。
「私は隊士やから警備の薄い場所を知ってるし、昼間みたいに隊士が屯所中におるわけやあらへんよ。夜の巡察の隊以外は皆好き勝手に過ごしとるで、大丈夫やって!」
「大丈夫なわけっ……!そんな簡単に逃げられるはず、ないですよ。逃げようとしたら……〝斬る〟って言われてるし…」
私の行動一つ一つに命がかかってる。おかしな真似する勇気なんて……。
「あほやなぁ」
頭上から降ってきた冷笑混じりの声。
平田は目許に三日月を刻み、目の前で苦悩する私に現実を突き付けてきた。
「ここにこのままおったかて、君、どうせ殺されるんちゃいますか?」